「都構想」とは何か? ~中身を理解してから、投票するために

「大阪市を廃止して区にする」ことが「目的」である大都市法による「都構想」。それすら説明されず「ムダを無くす」「二重行政を無くす」みたいなイメージばかりで中身が分からず、「政治家のケンカ」にすら感じてしまいます。 そこでこのブログでは法律・制度をきっちり読み込んで「都構想」の基本の中身を、順番に説明します。

(3) 「都構想」そのものが成り立たない?~誰が考えてもおかしい効果額2700億円の「楽観的すぎる仮定」

橋下市長の説明の「ムダの解消で生まれるお金2700億円 」の内、
 ・750億円は、
借金と資産処分(貯金と土地)
 ・残りの大半は「楽観的すぎる仮定」に基づく「粗い試算」
にすぎない

1)税収が拡大 と仮定
2)「貯金消費」「借金」「資産の食いつぶし」で区が自分でまかなう750億円を含む
3)職員数は5区細分化でも増は見込まず、逆に「減る」と仮定
4)ほぼ「地下鉄・ゴミ」が頼り(市廃止・分割と関係無し & 楽観的な仮定による)

●地下鉄の場合
・現在の毎年300億円(17年5000億円)の黒字の放棄は、計算に入れていない
・企業の増収増益項目の想定に抜本的なものが乏しく、楽観的
・民営化するのに、肝心の政治・利権介入は増える
●ゴミ収集・配送の民間委託の場合
・安価に「民間委託」により浮く金と、民間の増益からの税収アテにするが、委託条件そのものが、業界への調査でも困難とされ、実現メド無し

 「協定書」は「役所の仕事の分担」を決めるものですが、1つの大きな政令市を5つに細かく分けるので、調整ロスやコストがかかるはずです。 (← よく考えたら誰でも気付く当たり前なのですが。例として、総務省付属機関の答申での指摘は(5)に)
そこで、
 A:「都構想」をやった方が、お金の余裕ができるか?(サービスが向上するか?)
 B:少なくとも、今のサービス水準は落とさず、破綻しないで居られるか?

の2つを本来は検討するために、「一定の条件」を置き、「相当の幅を持って見る必要がある」という粗い試算が「長期財政推計」です。

この「粗い試算」によれば大きい「効果額」=17年で2700億円が生まれるとしています。しかも、橋下市長は「粗い試算」であることを言わず、「きっちり計算」「総務大臣がチェック」とまで誤解を招く説明をしています。
しかし、結論からいえば、この説明は不適切で、
 結果A:「都構想」しない方が、お金の余裕ができる
 結果B:今のサービス水準の維持すら難しい

となります。それは、
 理由A:「都構想」する・しないに関係無いお金を「効果額」としている
 理由B:相当「楽観的すぎる仮定」を置いている

ためです。ですので、「サービスは低下する覚悟」が必要です。

以下、順番に見て行きましょう。

1) 税収が拡大 と仮定

協定書の制度の仕組みでは、
「収入」については、「5つの区」と「大阪府」の合計は、ほぼ「今の大阪市」と「大阪府」の合計と同じで、「分け方」が変わるだけ、という制度になっています。
「5つの区」になって費用が増大しても、「大阪府」と合わせた「収入」の合計は同じ、という制度です。
ただし、この「粗い試算」では、今後税収が増えるという楽観的な仮定をしているようです。

バブル期など昔ながらの「経済成長期」のやり方にならったもので、アテが外れれば破綻の恐れがあります。
(計算式が示されてませんが、毎年100億円も増える、とアテにしているそうです)

この税収増が「財政調整できっちりお金は分配する」と言っている前提のものです。ただし、税収増は「長期財政推計」では明示されていません。もし毎年100億円の税収増のアテが外れたら、17年間で900億円分状況が悪化し、大阪府がお金を持ち出しが増えることになります。(国からの交付税が増えるので丸々ではないですが)

つまり、結果B:今のサービス水準の維持すら難しい の要素となります。

さて、次からは「長期財政推計」の表で、しっかり確認できる項目になります。

2)「借金」「資産の食いつぶし」で区が自分でまかなう750億円を含む 
でも、税収が順調に増加すると仮定しても、実はまだお金が足りません。
そこで750億円ほどを「財産売り払い」「基金取崩し(貯金を使う)」「新たな借金」という奥の手を使っている額750億円も、橋下市長が「17年間で改革による2700億円!」とおっしゃるものに丸々含んでいます。

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「j260723.xlsx」をダウンロード (←右クリック)

これらの借金や貯金など、資産の食いつぶしは、資産が思い通りの値段で売れるならば、「都構想」してもしなくても可能には違いないので、破綻リスクには一応ならないでしょう。ただし、「都構想」コストのための苦肉の策です。つまり、
 結果A:「都構想」しない方が、お金の余裕ができる
となります。もちろん、改革で「生みだす」のでなく、大阪市の資産・資金を食いつぶして得るお金ですが。

しかし、何故、橋下市長は、こんな誰にでもわかる単純な大切なことを「改革による効果」と決め手のようにおっしゃり、正直に説明しないのでしょうか?
ご提案が粗く、稚拙であったとしても、市民に良かれ、と思っているのなら、正直に説明すればよいのに、と思います。

 

3) 職員数は5区細分化でも増は見込まず、逆に「減る」と仮定

大きな政令市を5区に細分化し、かつ、窓口サービス等は維持する、と言いながら、 「人手は増えない、逆に減る」と仮定しています。
これにより、人手コスト増はゼロで、極めて膨大な「効果額(儲け)」が出ると仮定され、実に17年間で1570億円も生みだす、としてアテにされています。

少し考えれば、誰もが気付くと思いますが、これも不自然な「超楽観的な仮定」です。(国の「地方制度調査会」答申でも「特別区設置の場合」として指摘の通りです)
では、そんな「超楽観的な仮定」とはどんな仮定なのでしょう?
それは、支所や福祉などサービス水準が異なり、パート・アルバイトを多く用いて職員数を減らしている「中核市」の職員数だけを数字として使う、という仮定です。
単純にみても、パート・アルバイトが中核市で多い分は計算に入れないので、「人が減らせる」計算になります。 (下記の「解説」または「2(5)」「2(6)」を参照下さい)

なお「職員数が増えない」としたおかげで、庁舎コストも想定する庁舎規模を小さくできるので、もし職員数が増えるなら、庁舎コストも増えることになります。

 

つまり、「人手コストの増は無し。膨大な削減額が生まれる」とし、都構想全体で、増える主なコストは、ほぼ「庁舎整備」と「システム改修」のみと仮定して、小さいコストに見えるよう計算したものです。 (市長が説明する「イニシャルコスト600億円」はこの額です。)

この仮定には無理があるので、結果B:今のサービス水準の維持すら難しい となります。
また、大阪市でも職員削減は行っており、「5分割」するよりは職員削減は可能ですから、
 結果A:「都構想」しない方が、お金の余裕ができる ともなります。

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4)
ほぼ「地下鉄」と「ゴミ」が頼りの「効果額」
(市廃止・分割と関係無し & 楽観的な仮定による)

さらに「事業の売却・民営化」により「生まれるはずのお金」をアテにしています。これは、本来、各事業毎に条件や目的を吟味して判断すべきで、
 A:「都構想」する・しないに関係無いお金を「効果額」としている
ものにあたります。
したがって、 結果A:「都構想」しない方が、お金の余裕ができる となります
(=「都構想」するためのコストがかからないので)
といっても、「地下鉄の民営化」「ゴミ収集・配送の民間委託」の2つの事業からの「効果額」予想がほぼ全てです。そして、また、これらも「楽観的な仮定」に基づいて試算されており、そもそも、本当に、そんなお金が生まれるのか?について既に疑問があります。

この場合、「都構想」と関係の無いお金を算入しようともアテにできないので、結果B:「今のサービス水準の維持すら難しい」 の要素となります。

●地下鉄の場合

・毎年300億円の黒字の放棄を計算に入れていない
大阪市が現在得ている毎年300億円の地下鉄の黒字は民営化によりゼロになりますが、試算では無視し、ただ固定資産税等が増える額を「効果額」としています。

・企業の増収増益項目の想定に抜本的なものが乏しく、楽観的
民営化計画(←クリック)をみれば判るとおり、「スピーディ」「外部人材」「シナジー効果」など具体性を欠くスローガンや、安価な労働力の調達をアテにするとともに、本業でなく「新規事業」での儲けをアテにするという、過去の失敗事業の教訓を無視して「民営化による効果」としている状況です。
粗く考えても、民営化すれば、企業側から見れば、市税・府税・国税を新たに支払い、かつ、日本最古級の御堂筋線などの未来永劫の維持管理更新費用を引き当てる必要があるなど、劇的に今より黒字が増える、ということが容易でないことは、想像に難く無いところです。
地下鉄の老朽化・維持更新コストについては、NHK どうする地下鉄”老朽化”(←クリック)にも全国・御堂筋線の実態が報道されています。今後、こうしたコスト・リスクは増大する、と考えるのが「買収」企業からみれば常識でしょう。

・民営化するのに、肝心の政治・利権介入は増える
良くも悪くも民営化すれば、企業は企業の利益を最優先するので、不採算路線は廃止されたり、削減されたりする恐れがある一方、ニーズが少ない路線建設・経営は行いません。
これは、政治家が圧力をかけても、さすがに譲れません。
ところが、橋下市長や維新の会は、「市域を越えた府内・京阪神への地下鉄延伸」を主張し、「都構想」大きなメリットとしています。
ですから、大阪市営地下鉄を買収しようとする会社は、採算性に疑問がある路線の経営を強いられる覚悟が必要です。また、企業破綻リスクも増大します。
さらに、仮に地下鉄のトンネル等は「公有財産」とし、延伸部分の建設費用を区や府が負担するとすれば、「効果額」に含んでいる「固定資産税」は大幅に削減する必要があります。

・(参考)東京メトロについて (←会社概要はクリック)
民営地下鉄のお手本として橋下市長や顧問の学者が挙げる東京メトロ株式会社」の株主は財務省(53.4%)・東京都(46.6%)の2者のみの超優良「公有企業」。
「民営化のメリット」の「実例」と強弁する説得力に乏しい。

 

●ゴミ収集・配送の民間委託の場合

こちらは、文字通り、今、大阪市がやっている家庭・一般ゴミの収集と配送を、民間業者に安く委託したら、お金が浮く、ともくろんでいるものです。

地下鉄の「民営化」もそうですが、今後も長年にわたり毎日毎日続けていく必要のある仕事について、役所や学者が、「高く売ったり、安く頼みたい!」と思った通りに、「民間」が引き受けてくれる、という「想定」は、自分勝手で楽観的に過ぎる面があります。
悪い意味で「役人的」と言えるでしょう。一般に「民営化」を進めるのは「改革派」というイメージかもしれませんが。

もちろん、全ての家庭ゴミの収集・配送は、ラクな仕事でも、働き手が簡単に集まる仕事でもないし、「儲かるオイシイ仕事」でもありません。

大阪市では、もう2年も近く前に民間業者への調査(マーケットサウンディング)を行い、「安く委託したいので、ずっとしっかりひきうけてほしい」という呼びかけしました。
http://www.city.osaka.lg.jp/kankyo/page/0000239201.html(クリック)
しかし、比較的無難な答えをしても差し支えの無いアンケートの答えですら、大阪市の委託の条件で安く仕事を引き受けてずっと続けていくのは難しい、ということが既に明らかになっています。
やはり、ただ「民間業者を安く使って、お金を浮かせる」というのは甘いようです。それなのに、「民間業者に安くヤラせる」ことでの莫大な「効果額」(17年間で1200億円!)をアテにした「粗い試算」になっています。

このように、ゴミ収集・配送や地下鉄など、「都構想」と関係の無いお金を算入したとしても、アテにできないことになるので、
結果B:「今のサービス水準の維持すら難しい」 ということになります。

ハッキリ言えば、「都構想」は、財政的に府・市まとめて破綻する恐れがある、ことになります。

 

 まとめ~ 橋下市長は、何を2700億円とおっしゃっているのか?

以上のとおり、での「改革による2700億円」の内訳は、
1)税収が17年で900億円伸びる?と仮定した収支の累計30億円
   → 不足すれば、丸々、大阪府が負担
2)借金や貯金消費・資産売却などで区が自分でまかなう750億円
   → まったく改革と関係無い「お金の工面」、それも民間が言い値で買ってくれてこそ

3)職員が減らせると仮定で1570億円
   → 「5区に分割するのに、職員減る」トリック →下記解説or(5)(6) 
4)地下鉄民営化で1500億円 (市が得るはずだった黒字5000億円の減は無視)
  ゴミ収集の安価な民間委託で1100億円
  その他16項目で1100億円
  合計から、交付税減額や庁舎・システム改修費など3300億円を差し引き400億円

以上を合計したのが、ざっと、2700億円になります。

では、この中で、アテにできそうなお金はどれでしょう?
1)3)4)は仮定が楽観的すぎますし、はるかに巨額の黒字放棄を無視したりしています。
また、3)職員数はむしろ「都構想によるコスト」の発生を覚悟すべき項目です。
そして、2)は単なる資金・資産の食いつぶしにすぎません。
4)の各事業は、事業毎に最適な方法をきっちり検討すべきもの。ただ単に「都構想賛成なら賛成しろ!」というものではありません。主要な地下鉄・ゴミだけでも、上に示した通り、根拠も仮定も粗いものです。
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 「長期財政推計 ”効果額”の内訳」をダウンロード(←右クリックで保存)

では、この中で、「都構想」しないと生まれないお金はどれでしょうか?
コストは丸々かかります。そして、職員の「増」のお金も実際にはかかることでしょう。
しかし、「都構想」しないと生まれないお金はありません。4)の全ての事業が丸々利益が出ると仮定した上で、「都構想賛成なら皆賛成!」という論理での乱暴な主張に過ぎません。

このように「都構想」という粗い話を無理矢理な仮定を置いて進めようとすることで、個々の事業や政策のきちんとした検討・見直しが、逆に進まず、または悪化するような「改革」に迷い込む、そういった懸念も生じます。


以上のことは、すでに「大阪府市大都市局の公表資料」や「大阪市の資料」「総務省の地方制度調査会の資料」などで明らかになっているものですし、橋下市長は、よくご存知のことです。
大阪市民にとって、実は大阪府民にとっても、とても大切な住民投票です。
橋下市長は、ぜひとも、きっちりと説明してフェアに住民投票に臨んでください。でないと、本当に「ダマした」ということになります。また「僕は知らなかった、大都市局の資料を信じてた。」などとは言えないことは、ここにはっきりと申し上げておきます。
本当に大阪のことをよくしたい、という思いは本物であるのならば、勇気を出して、本当のことを。
よろしくおねがいします。

 

解説)職員数・人件費 (根拠は、「2(5)」「2(6)」

、「大きな1つの市」を「サービスそのまま、区役所の箇所数もそのまま」でいながら(「政党のビラでは「さらによくなる」とまで言っていますが)、

5つの区(市のようなもの)に分けたうえで、なお、
「職員数はトータルで今よりも減らせて、お金が毎年浮く」という不自然な仮定は、大まかに言えば、

ア)近隣の中核市5市の「アルバイト・非常勤などを除いた職員数」の平均を基にする
中核市ではアルバイトを多く雇うことで職員数を減らしている場合があるが無視して、中核市並みに職員削減が可能とする)

イ)実際に現在の大阪市の仕事に従事している職員数は無視

ウ)現在の大阪市と5市とのサービスの質・内容の違いは無視

という仮定のためです。  (パッケージ案 「職-14」)

 (ほか、ただし
  ・中核市が制度上行わない「児童相談所」「教職員人事」の人数は割増
  ・「生活保護世帯数」が多い分は割増

 

  ・「社会教育関係」はさらに減らす などの修正あり)

本来なら、「中核市」の例を基にするならば、
まず、「大阪市の各仕事内容と人手」と「中核市の仕事内容と人手」を比較すべきです。
所得水準や高齢化などの違い、施設の老朽化・規模などの維持管理の違い、それに中核市の「支所」と大阪市の「区役所」の違いなどがあるためです。

また、中核市大阪市と違い、アルバイトや非常勤職員を増やすことで職員数を減らしているので、そのまま計算したら、実際の従事している職員数より相当、少なく計算されてしまいます。
このことにより、現在、アルバイト・非常勤が少ない大阪市の職員数より減らしても、なぜか小規模分割した5区運営が可能、という計算が成り立ち、「効果額」に上げられているものです。
「効果額」を生みだすとされている人件費には当然、「中核市並みのアルバイト人件費」は算入されておらず、必要庁舎面積にも、「中核市並みのアルバイト職員も収容する面積」とはしていません。

ですので、真に中核市並みの「人件費」「庁舎」とするならば、人件費コストは「推計」よりも増大しますし、庁舎コストも増大することになります。

 

 

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