「都構想」とは何か? ~中身を理解してから、投票するために

「大阪市を廃止して区にする」ことが「目的」である大都市法による「都構想」。それすら説明されず「ムダを無くす」「二重行政を無くす」みたいなイメージばかりで中身が分からず、「政治家のケンカ」にすら感じてしまいます。 そこでこのブログでは法律・制度をきっちり読み込んで「都構想」の基本の中身を、順番に説明します。

(5) 市の細分化のコスト・ロスに関する政府調査会の公式見解、や「総務大臣意見」について

1)調整ロスや分割コストが増大するはず、という公式の指摘

大阪市を5つの区に分けて、各々の庁舎・施設で各々の区長・区議会の判断に従って仕事をし、各々が独自の利害によって意見や意思決定をする、という「都構想」。
なのに、「より多くのコスト」や「お互いの調整手間が増える」ことはなく、「膨大な効果額があがる」というトリックは、(3)2700億円の楽観的すぎる仮定(←クリック)で見てきました。
この調整ロスや分割コストが増えることや、区に分割することのリスクは、たとえば、総理大臣の諮問機関である「地方制度調査会」の答申でもはっきりと指摘されています。

地方制度調査会
「大都市制度の改革及び基礎自治体の行政サービス提供体制に関する答申(平成25年6月25日)」
・大都市地域特別区設置法に基づく特別区の設置に当たっては、・・・
また、長年存在してきた指定都市を特別区に分割することにより、分割される事務の処理に係る費用や、特別区間や道府県と特別区の間の調整に係る費用が増大するといった懸念には的確に対応するよう留意すべきである。

特別区において処理すべき事務が多いほど、また、特別区の規模が小さいほど、分割される事務の処理に要する費用が増加するとともに、特別区の間で行うべき財政調整の規模が大きくなることに留意すべきである。

せっかくの指摘も、「都構想」や「協定書」はほぼ無視しています。
「地方制度調査会」答申で指摘されたリスクは、都構想では「無し」とされ、職員数は増えるどころか、大幅に削減し「効果」を生む!と仮定したうえで、「協定書」がつくられています。(なので、主に庁舎建設とシステム改修コストのみ)

 

2)総務大臣の「意見無し」の意味について

なお、協定書は総務大臣から「特段の意見は無し」とされ、「総務大臣が保証した内容」のように、橋下市長は説明していますが、
もちろん、これまでにみた通り「2700億円が改革によって生み出される!」とは全く書いておらず、「粗い試算で、相当の幅をもって見る必要がある」という前提での資料として大臣は見ています。

そのうえで、協定書の財政調整にあるとおり、「国から大阪が頂くお金は今より増増やさない」「大阪のなかで納める」「区が足りない場合は、区が借金したり財産を売ったりする」と約束したので、「特段の意見は無い」としていただいたわけです。
だからこそ、大阪府からの条例による交付税を含めた5区への財政調整は「当面」と協定書に書いてあるのです。
大臣からみれば、あくまでも、大阪市民が、デメリットもある「都とみなす」制度に、自らの意思で乗りたい、とお願いに来た、だけなのです。
最終的には、東京都・23区と同じ制度、つまり、「3税の再分配のみで5区はやり繰りし、足りなければ、足らずは5区でガマンしあう」(都(府)からの交付税を基にした加算は無い)という前提がある「制度設計」、それが「協定書」です。)

3)大阪市廃止・5区設置 と関係の無い「効果額」について

なお、2700億円が、何らかの形で、仮に生みだされる(借金や貯金消費も含めて)としても、地下鉄・ゴミなどの「施設・事業の再編」は、「大阪市廃止する・しない」の是非とは別に、個々の施設や事業について判断されるものなので、「効果額」に含めるのは、市民の誤解を招く、という指摘もあり、大阪府市大都市局も「そもそも、4つの区割り案比較のための計算であり、大阪市のままで可か不可かを論じる資料ではない」との趣旨を答弁しています。
これらを除くと、よく「反対する野党」が言っている「コスト600億円に対して、効果額は1億円しかない」ことになります。

第11回 大阪府特別区設置協議会(平成25年12月20日)
(長尾秀樹委員)
わかりました。また、委員間協議でやらせていただきます。
次に、再編効果、継続的効果のAB項目関連で、市政改革プランに基づくものもそうですが、そもそも我々は入れるのはおかしいと思っておりますが、仮に入れるとして、もう既にパッケージ案で想定した効果の見込み額の前提が崩れているものがあるというふうに思っておりますが、それが再計算されていないのはおかしいと思いますが、この点についてお聞きをいたします。

(府市大都市局松阪広域事業再編担当課長)
今回の財政シミュレーションは、区割り試案4案を比較検討するため、パッケージ案をもとに粗い試算として作成したものでございます。
AB項目関連の効果額につきましては、前回の法定協議会の時点で試算できました地下鉄民営化の効果額の再試算後のもの、それから一般廃棄物の焼却処理事業に関する一般財源分の効果額、これらを算入いたしました。これらを反映しまして、効果額を出しまして、それをもとにシミュレーションを行ったものでございます。
・・・
(山口大都市局長)
精緻なものをつくろうとすれば、我々、最初にお願いしたとおり、やはりある程度予算編成を経るとか、取り組みというものをしっかり見ていただいて、出させていただきたいということでしたけれども、やはりこの協議会の中で、4案を絞り込んでいこうということになれば、非常に粗々でもいいので、傾向というか、細かい数字というよりも、やはりどういう7区案、5区案でトレンドを示すのかということを、見た上でご議論したいということで、一定の時期を切らせていただいて、試算をさせていただいたということでございますので、この点はご理解をお願いしたいと思います

平成26年9月、9~12月定例会常任委員会(財政総務)-10月09日
(佐々木哲夫委員)
・・・
まず、二重行政の解消についてということで、二重行政の解消によって浮いたお金を大阪の成長のための投資に回すと、そのようなのが都構想の議論でございます。
政令指定都市特別区に移行しないと解消できない二重行政というのは具体的にどのようなものがあるのか、また、その二重行政解消の効果額は幾らなのか、まずお伺いします。

(林大阪府市大都市局広域事業再編担当課長)
・・・
法制度上、政令指定都市特別区に移行しないと解消できないものといたしましては、例えば、府市統合本部のAB項目では政令市に設置義務のある精神保健福祉センターがございますが、効果額につきましては一元化された際の体制等が現段階では明らかでないため、算出してございません。以上です。


4)必要となる大きな新庁舎は、いつ、どこに建て、それまでどうするのか?

「庁舎」は、各特別区の中のちょうどよい場所に、ちょうどよい大きさの敷地が無いと建てられません。
ただ、庁舎の中身や大きさや場所は、まさに「特別区」の区長・区議会・住民が民主的に考えて合意して決めることなので、どうなるかは未定という前提で、住民投票をする必要があります。

それまでは、ほぼ今の大阪市の各部局と同じ場所で、5区同居してサービスをし続けることになります。

(これらは、第16回協議会(←クリック)で、橋下委員や新田谷委員から明言されています。)
そのため、それまでの「仮移転などのコスト」は一切想定していません。

なお、そうした「場所」「規模」などが決まったあとで、「計画・設計~工事」の期間が「概ね5年」はかかる、ということです(これは「工程表」にやや紛らわしい書き方ですが示されています)
「概ね5年」には、そうした場所・規模などを検討して決定する期間は含まれていません。
また全部の区の庁舎が揃わないと、ずっと「居候」状態の区が出られません。このことも、覚悟しておくべきでしょう。

 

 

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