「都構想」とは何か? ~中身を理解してから、投票するために

「大阪市を廃止して区にする」ことが「目的」である大都市法による「都構想」。それすら説明されず「ムダを無くす」「二重行政を無くす」みたいなイメージばかりで中身が分からず、「政治家のケンカ」にすら感じてしまいます。 そこでこのブログでは法律・制度をきっちり読み込んで「都構想」の基本の中身を、順番に説明します。

(7) 「サービスは低下しない」は本当か? ~職員数・お金・サービスの3すくみ

要点
1)明らかなウソ「4000億円」 ~ 吹っ飛んだ「粗い試算」「相当の幅」の前提
2)「大阪府への統合」によりお金が生まれる、というウソ
3)お金・職員数が足りないので、「今の住民サービス」は維持されない
4)「財政調整制度」「協定書」はお金の分配の仕方。「収支悪化しない」制度ではない。
5)「過去の失敗」に向き合わず、「楽観的な期待・前提」に基づくのが「大阪都構想

1)明らかなウソ”4000億円” ~吹っ飛んだ「粗い試算」「相当の幅」の前提

長期財政推計は、「粗い試算」なので、本来は「サービスは低下しない」「お金は足りる(生まれる)」などとは言い切れないことが大前提でした。
逆に、「この仮定が成り立つのなら、サービスは低下しない」「お金は足りる」という試算です。

だからこそ、これまで見て来たとおり、
・実質よりも相当少ない数字が出せる、中核市定員平均による職員数
年300億円の黒字放棄をカウント外とし、副業収入増?までアテにした地下鉄民営化
・肝心の民間企業から条件に無理アリと指摘されている、安価なゴミ収集・配送
など、「最大限、維新と橋下市長の主張に沿った項目を取り入れて、楽観的に予測」、という大胆な「仮定」を取り入れた「粗い試算」がされているものです。

この作業をした大阪府市大都市局は、市長の直轄機関として市長の意向で動くのは当然とはいえ、「粗い試算」という大前提があったので、おそらく「役人としてウソ」ではない作業(誤解招くにせよ)だったようです。
そもそもこの作業は「4つの区割り案の比較のため条件を揃えて出したもの」にすぎなかったのです。

しかし、今、住民投票を間近にして、橋下さんや維新が「大阪都構想まるわかりブック」や市税を使った説明会で公言している「みなさんが使えるお金4000億円」「ムダの解消により生まれる4000億円」は、これらの前提を意図的に隠し、「確実にアテにしてよいお金」と誤解させています。
しかもこの巨大な「効果額」に加えて、「貯金(基金)の消費」「税収の自然増期待」「新たな借金」「土地資産の切り売り」までを大きく含んだお金です。つまり、明白なウソです。

ですから、大阪府市大都市局の資料や先の説明会の「質問票への回答」でも、「使えるお金4000億円」「ムダの解消による4000億円」などの記載は一切ありません。

橋下さんや維新は、しかし、この「4000億円」を常に「大阪府市大都市局”発表”」とまで書いて「行政のプロ中のプロが計算したのだから信じなさい!」という、これも明白なウソです。重要で悪質なウソと言ってもいいでしょう。

注)
橋下市長は住民説明会でも「お金がなければなんにもできない」とした上で、「サービスは変わらない、もっとよくなる」と明言されています。
しかし、その根拠は「大臣」と「大都市局」の勝手な「解釈」のみです。
総務大臣がチェックした。問題あるなら指摘するハズ」「大阪府市大都市局の資料に明記(←自分の部下)」と。
事実関係や条件を歪曲してまで、責任回避する理由は、御自身、問題を充分ご承知の傍証です。

ですから、「(17年間で)4000億円」の増収は、決してアテにしてはいけないお金です。
そして、そもそも、「増収」になるというのも、「楽観的な仮定」に基づいた「粗い試算」なのです。 (しかも、民営化により失う、地下鉄17年間5000億円の減は、無視した金額)
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2)「大阪府への統合」によりお金が生まれる、というウソ

大阪市を廃止して、5つに分ける」のだからコストとロスが生じるのが常識なのに、なぜ、お金が生まれる、という常識と正反対のウソが信用されやすいのでしょうか?
それは、あたかも「大阪府へ多くの”二重行政”の仕事が統合されて、ムダが減る」という誤ったイメージがバラまかれているからです。
(2)で見た通り、大阪府へ「統合」される仕事はごく限られており、むしろ「区」ができないので、5区の分だけ大阪市が「市町村行政」をするハメになったもの大切な仕事すらあります(消防、地域の都市計画、マンホールに至る下水道)。
あくまでも「大阪市の廃止・5分割」が主であることは、(3)(4)でみた楽観的な「効果額」の比較からですら明らかでしたね。
もし「統合によるムダの解消」があるのなら、それを推計に入れてるはずで、逆に「楽観的すぎる仮定」をする必要は生じなかったでしょう。
「統合の効果」が無くて困った大阪府市大都市局は、「粗い試算」で楽観的に非現実な条件を加味して、「お金が足りる・増える」という計算するしかなかったようです。

多くの市民の方々はこのような推計の計算まで見ませんし、「職員数」のトリックなど判らず、ダマされることとなっています。
単純に本質である「5区への細分化」を考えれば気付くことなのです。だからこそ「イメージ戦略」でゴマかそうとしているのです。

 

 

3)お金・職員数が足りないので、「今の住民サービス」は維持されない

もうお判りとおもいますが、「長期財政推計」の仮定が崩れれば、協定書の「住民サービスの水準を低下させない」という目標も崩れます。
もちろんこれは協定書の条件としているのではなく、「事務の承継」の留意点にすぎないので、「サービスの水準を低下させない」は法的拘束力はありません
サービス低下が明らかになっても、誰も訴えられませんし、大阪市は元にはもどりません。

そして、肝心なのは、「お金・職員数が足りなければ、住民サービスは維持されない」ということです。
だからこそ、橋下さんや維新は、「皆さんが使えるお金4000億円」と宣伝しているようです。まさか、足りなくなる恐れがあるとは言わずに。

よくニュースでは、高齢パス、プール、保険料などの行く末がどうなるか? テーマにされがちですが、1つのサービスだけならば、その予算を区長・区議会が優先するか、どうか?で変わってきます。
また、「大阪市が得するのか?大阪府が得するのか?」という議論も、「政治による意思決定」の議論なので、水掛け論になりがちです。

しかし、「府・市トータルで、お金の支出の方が今より増える」ならば、そんな1つ1つのサービスはともかく、とにかく、「今の住民サービスは低下しないと仕方がない」のです。

そして、長期財政推計(粗い試算)が、そんな答えにならないよう「楽観的すぎる仮定」を置いて計算されていることからも、実際はその恐れが非常に強い、との覚悟が必要です。

つまり、「大阪都構想」の公式は、

 

お金の収支が減 → 職員数は減らさざるを得ない → サービス低下

もともと、普通に考えれば誰でも気付く単純なことなのですが、「1つの政令市を廃止して、5区に細分化」するのが「都構想」なので、
・コストやロスが大きく生じ続ける(初期の庁舎とシステム”だけ”は橋下市長も認めてる)
・お金の「入り」は増えない
・何かを節約または処分または借金しないといけない
のは当然です。だからこそ、「長期財政推計」の楽観的な仮定ですら、「貯金の消費」「土地の処分」「新たな借金」で埋め合わせが必要となっていたのです。

住民サービスはお金が今より足りなくなるので、低下する ことを大前提に、「都構想」を判断していく必要があります。
ありえない楽観的な未来予想図をアテにすることは、まさにATCWTCやりんうタウンの「ベイエリア」開発した「過去の失敗」の繰り返しです。

 

4)「財政調整制度」が成り立っても、サービス低下

特別区になると、今の主な市税3つが一旦、大阪府に行って「交付金」として帰ってくる、という「財政調整制度」があるから、「大丈夫」というような誤った議論がなされています。

しかし、この制度は、「大阪府と5区それぞれ」の6者間のお金の分配の仕方を決めた制度にすぎません。ですから、今までみてきた「大阪府・5区トータルでお金が減る」場合も、減ったお金を分配する、というだけです。
「コストやロスで収支が悪化しない」ことを保証した制度ではありません。つまり、「財政調整制度が成り立つ」のは、「大阪府・5区トータル」でお金が増えても、減っても、「お金の分配」はする、というだけのことです。
「だからサービスは大丈夫」とか、「大臣が大丈夫と言った」というのは完全な誤解です。

ですから、
「財政調整制度は成り立つ」でも、「大阪府・5区でお金の収支は減るので、今より行政サービスは低下する」
というのが、普通に考えた、「大阪都構想」の未来予想図になります。

もちろん、その意味で、橋下さんが言ってる「大阪は変わる」「大阪は変われると信じている」というのはウソではありません。
そして、「悪く変わる」ことへの恐れ・備えをしない思想とは、すなわち、バブルの思想です。政治家になったばかりの頃の橋下さんのお考えとは違ってきているのかもしれません。皮肉なことに。

5)「過去の失敗」に向き合わず、「楽観的な期待・前提」に基づくのが「大阪都構想

なお「財政調整制度」や「都区制度」については、正しい意味で「政治的」に見れば、課税主体と使う機関が異なったり、府と各5区相互の利害調整というプロセスが生じてしまう、というデメリットは指摘できます。
また、圧倒的に収入が莫大に多い東京都の23区が都に3税の分け前を都に与えるという前提で実施されている制度なので、収入が足りない大阪では、逆に府が利害調整がさらに大変、というデメリットもあります。

こうした「利害調整」すなわち、政治的な意思決定は、府なら府全域の利害代表、区なら区の中の利害代表が、利害を主張・議論した結果、利益分配や投資がなされますから、利益分配は当然、「変わります」
つまり、今よりも増える地域・人と、減る地域・人が生まれることも、当然、覚悟しておくべきことです。
この「減る不満」を避けて人気を得るには「とにかく、全体がさらに豊かになる」という「楽観的な仮定・予想」を言うしかなくなります。
これが、過去のバブルや過去の失敗のときの「専門的な検討」「意思決定」の仕組みです。まさに、今回の「都構想」の「検討」とそっくりな状況なのです。

過去の失敗に学ぶべき、過去の失敗を繰り返さない、そんな橋下さんの主張は誰もが納得するものです。
しかし、そのためにこそ、過去の失敗の原因をちゃんと見るべきです。あいまいに「二重行政」とか「大阪市」のせいにして安心してしまうことこそ、「新たな失敗」の種をまき芽を育てることになります。
この「都構想」の楽観的すぎる仮定・予想は、その良いお手本です。

皮肉なことに、「都構想」「橋下さん」「維新の会」に期待している人の多くは、こうした「過去の失敗・意思決定」を繰り返したくない、と思っておられるのに、結果として、このうえなく「過去の失敗」と似た前提による「大阪都構想」に「賛成」しようとなさっておられるのです。
住民投票を間近にして、意図的にウソを重ねた宣伝が増えているので、ダマされる方が悪いとは言えませんが、心が痛みます。